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郊外系デイタイム

第四幕 快眠

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第四幕 快眠

ナイトメアの表情を見るまでもない。実に不愉快な朝だ。
 僕はベッドから降りて伸びをする。すると背後から大きなため息とともにナイトメアのぼやきが聞こえた。
「死のう」
 極端だね。
「君に死なれると僕が飢えるからやめてくれるかな」
 何があったって、単純な話。ナイトメアが幸福な夢を見てしまったんだ。
 買った覚えのない宝くじは当たるし、学生時代の片思い相手と偶然再会して親密になるし……身も蓋もないことこの上ない夢だったけれど、人間が望む幸福なんて得てして下品なんだからさもありなんといったところか。
「どうしよう。どうしようバク。生きるのがこんなにもつらいよ!」
 ナイトメアはベッドから動かずに手で顔を覆いながら頭を縦に振っていた。
「仕事したくない。遊びたくもない。かといってご飯も食べたくないしお風呂にも入りたくない。何もしたくない。僕を不幸にするための罠がどこに仕掛けられているのか、わかったものじゃない」
 これは重傷だね。いい夢を見るといつもこうなるのかな。
「落ち着こうナイトメア。また子供たちの夢の話を聞きに行けばいいじゃないか」
 僕がそう言うと今度は頭を横に振ってナイトメアは、
「ダメだよ。仕事しないと、バク」
 と返した。
 ナイトメアは大多数の人間と違って家にいながらお金がもらえる仕事をしていた。『ふりーらんさー』っていうらしい。詳しいことは説明を聞いてもわからなかったけれど、どうやら仕事をする時間や量は自分で自由に決められるらしい。それなら今日は休めばいいのに。
 どうにも人間っていうのは、不幸な目に合うとその不幸を自らの手で深めてしまうきらいがあるね。不幸を回避する方法があるよって言っても何かと理由をつけて不幸を継続させていないと気が済まない。そんなの、構ってられないよ。
 ああ、おなかすいた。昨夜はご飯抜きになったわけだから当然だ。ナイトメアが辛そうなのはもう放っておくとして、僕は僕で飢えないように対策をしないと。
 他に悪夢を見ている人はいないだろうか。この際あまりおいしくなくても構わない。そうだ、ナイトメアが悪夢を見なかったっていうことはこの間の公園にいた子供たちは悪夢を見ているのではないか。
 ……子供か、嫌いなんだよなあ。でも背に腹は代えられないしなあ。

 七日ぶりかな。この公園に来るのは。僕はナイトメアが少年の悪夢を取り込んだあの時の公園に来た。この間と同じように子供たちがいればその後をつけて、昼寝した時を見計らって悪夢なら喰ってやろうという算段だった。僕は公園のベンチでしばらくくつろいで待つことにした。
「うう……夢喰いのお兄ちゃん……うええ……」
 しばらくすると、どこかから泣き声らしきものが聞こえてきた。子供の声か。夢喰いのお兄ちゃん、たしかナイトメアが以前そう呼ばれていたな。
 僕は立ち上がり周囲を見回す。すると、僕がいるベンチに向かってすすり泣きながら歩いてくる少年がいた。この間ナイトメアに群がっていた子供のうちの一人だったと思う。
 僕はそのまま子供の様子を見ていた。僕のいるベンチの隣のベンチまで来たあたりで僕はその少年と目が合った。
「あっ、悪魔だ!」
「うわやばっ!」
 気付かれた。これだから子供は嫌いなんだ。「猫だ!」ではなくいきなり「悪魔だ!」って言い切られた。そういう変に鋭いところが苦手なんだよな。
 僕はベンチから降りていったん出直そうとした。しかし、
「待って!」
 少年に呼び止められてしまった。僕は逃げかけて少年に対して後ろを向いていたのを、顔だけ少年に向ける。
「あまり待ちたくないな。子供との接触はこっちの世界ではあまり推奨されていなくてね」
 僕がそう言っても少年は意に介さなかった。言ってることが理解できなかっただろうか。
「助けて……怖い夢を見るんだ」
 少年はそう繰り返すだけだった。僕はやれやれとため息をつき、少年の方を完全に向き直した。
「最近毎日怖い夢を見るんだ。高いところから落ちる夢や、銃で撃たれる夢、他にもたくさん。ねえ、助けてほしいんだ」
 猫の姿をした僕が人の言葉を話しても微塵も驚かないくせに、悪夢は怖いのか。 少年はしばらくして泣くことをやめていたけれど、依然として暗い表情だった。
「悪魔と契約するっていうのかい?」
「契約……?」
 僕が言うと少年はあからさまに怖気づいた。 とは言ってもこんなものはハッタリで、下界の人間に力を与えるだなんて所業は僕にはできない。技術もないし許されてもいない。
「嘘だよ」
 もうちょっとこうして遊びたいところだけれど、あいにく僕もお腹が空いている。
「運がよかったね。利害が一致したよ。僕が君の悪夢を食べてあげる」
 そう言うと、少年は見る見るうちに顔を明るくして、
「本当? やったあ、ありがとう」
 と大げさに喜んだ。やれやれ、これで僕も飢えずに済むかな。
「悪魔さんのおかげで今夜寝るのが楽しみになってきたよ」
 ……ん?
「ねえ、昼寝とかしないの?」
「しないよ! お日様が出てるうちはずっと遊ぶんだよ」
「そ、そう……」
 ……おなかすいたな。


 

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