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郊外系デイタイム

第五幕 条件

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第五幕 条件

「バクサン。オテガミ。オテガミ。ソクタツ。シンテン。ヨクヨメ」
 郵便屋の鳥型キメラがわざわざ下界に下ってまでして僕に手紙を届けに来たのは、リリーの体に取り付いてから一か月後の話だった。
「なんだい? 僕みたいなはぐれものに手紙だなんて珍しいね」
 差出人の名前に覚えはなかった。知らない人からの手紙か……。もしかして、ナイトメアの件で抜け駆けしたせいで変に有名になっていたりするのかな。それは嫌だなあ。
 そんなことを考えながら僕は手紙の内容確認を始める。件の物は封筒に入っていて、手紙以外にも何かが入っているように見える。取り急ぎ用件が知りたかったので、僕は猫の手を起用に使って封筒の中から手紙だけを抜き取り、読んでみる。
「……なるほど、より嫌な内容が書かれていたね」
 手紙を読んでなぜかちょっと吹き出してしまった。やはり僕は変に有名になっていたらしい。
『タダチニ、キカンセヨ』
 どうやら僕が住んでいる国の政府からの通達のようだ。読み始めた時は入界審査の時に身分を偽ったことがバレたのかなとか、抜け駆けしてナイトメアと接触していたのがいけなかったのかなとか、いろいろ心当たりを考えたんだけれど、どうやらお役人さんが問題視しているのはそのどちらでもないようだ。
 何がいけなかったって、少年の夢を食べたのがいけなかったらしい。
 この前ナイトメアが幸せな夢を見て絶望していた日、僕は悪夢を見たという少年と出会い、彼の悪夢を食べた。結局あの日は一日ご飯抜きでお腹が空いていたから、背に腹は代えられなかったんだよなあ。
 魔界と下界との調和維持のために、本当は魔界の生き物は人間の子供に関わってはいけない決まりになっている。誰かに見られたのか知らないけど、それがバレたのだから帰れと言われるのも当然かな。
 ただ、手紙には続きがあった。悪魔が人間の子供と接触することがよくないということに変わりはない。しかしながら、ナイトメアとの接触は非常に有意義なものだという。速やかに帰り、ナイトメアに関する情報を提供するのであれば、お咎めなしどころか、今後生きていくのに苦労しない程度の好待遇を約束すると書いてあった。好待遇って何だろう。名前をくれるのかな。天然ものの悪夢が何もしないでも手に入るのかな。もともとカーストの最底辺に生きる僕には幸福のイメージがいまいちつかめない。
 まあ、どうでもいいけどね。ナイトメアの悪夢が食べられる今の生活の方がよっぽどわかりやすくいい暮らしだと思う、そもそも、いい生活させてやるって偉そうに言ってくるところも気に食わないんだよね。下等悪魔だからって足元見やがって。
 というわけで、現状僕に帰る意思はない。帰らないと何か怒られたりするのかな。手紙を追っていくと、さらに記述があった。
 以下の条件を満たす場合は帰還命令を取り下げる。ふむふむ。
 帰らなくて済む唯一の条件。それは少年に悪夢を見せること。
 ……悪夢を、見せる? 食べるじゃなくて? しかもあれだけ不可侵って言っていた少年に? たぶん、一度少年から奪ったものを返還することによって補完を行うとかいうわけのわからない理屈なんだろうな。とはいえ僕は人の悪夢は食べるけど、人に悪夢を見せる力はない。これはちょっと、困ってしまったね。
 僕がそう考えながら唸っていたら、突然別室からゴトン、と物音一つが届いた。
「ぎゃあああああ!」
 男の叫び声を聞くのはもはや日課と言っていいレベルだった。僕は叫び声がした部屋に向かう。
「おはよう、ナイトメア。いい悪夢は見られたかい?」
 僕が毎朝の挨拶をすると、ナイトメアは、
「知ってるくせに。僕の悪夢はおいしかったかい?」
 なんて言って笑うのだった。
「もちろん。わざわざリスクを冒してまでこっちの世界に来たかいがあったよ」
 そう。僕はリスクを覚悟した上でここまで来ている。そうして手に入れたものをみすみす手放していいはずがない。僕はやっぱり帰れない。
 とはいえ、どうやって悪夢を見せたらいいのかなあ。現実は厳しい。
 夢を見せると言ったらサキュバスかな。……いやでもサキュバスが見せるのは淫夢だから、そんなものを人間の子供に見せたなんて知れたらまた問題になるかもしれない……。
 僕がうーんと頭を抱えていると、ナイトメアが玄関扉に備え付けられた郵便受けを見ながら何か言っていた。
「今年もこの季節がやってきたかあ」
 そう言いながら郵便受けから紙を一枚取り出していた。
「どうかしたのかい?」
 僕が訊くと、ナイトメアはいつもよりも少しポジティブな表情になる。日ごろの悪夢の賜物だね。
「祭さ。祭くらい、悪魔だって知ってるだろ?」
 そう言ってナイトメアは手にしていた紙を僕の目の前に置いた。
「そりゃあ、まあ」
 祭を告知するポスターなんだろうけど、あいにく字が読めない。
「この地域では子供を集めてみんなで肝試しをするんだよ」
「キモダメシ?」
 その言葉は知らなかった。悪魔だからなのか、僕が単にモノを知らないのかはわからないけれど。
「うん、子供に暗い夜道をおつかいに出てもらうのさ。一度も音を上げることなくおつかいを果たして帰ってきた子が勝ち。僕も毎年お化け役で出てるのさ」
「お化け役って?」
「ああ、道中にはお化けに扮した大人たちがいて、彼らが子供を怖がらせるんだよ」
 ナイトメアは朝食の支度をしながら僕の質問に答えてくれた。なるほど。子供を怖がらせるのか。
「へえ。それ、使えるかも」
 僕は少しわざとらしくにやけてそう言った。
「使える? 何に?」
 ナイトメアの当然の質問に僕は答えない。
「まあ見ててよ。きっと思い出深い肝試しになるよ」

 

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