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郊外系デイタイム

第二幕 深層

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第二幕 深層

ナイトメアがいくら抗おうが、夜になれば僕のターンが回ってくる。
「おやすみバク」
「おやすみナイトメア」
 ナイトメアはそのまま布団をかぶり、そう時間がかからないうちに寝息をたて始めた。僕はその様子を眺めながら今夜の出会いを反芻する。
 これが悪夢を愛食する男か。変なやつなんだろうとは思っていたけれど、本当に変なやつだ。もっとも、僕としてはその方が退屈しないからいいんだけど。僕は猫らしく伸びをしてナイトメアの枕元に飛び乗った。
「ううっ」
 ふいに布団の中からナイトメアの苦悶の声が聞こえてきた。さあ、いよいよ来たぞ! これからナイトメアが見る悪夢、いったいどんな夢なんだろう。そう思うとおなかがすいてしかたがない。
「さあ、美味しい夢を見せておくれ、ナイトメア」

 突然景色が変わった。青色というか、灰色というか。そうか、海の中だ。僕はいつのまにかナイトメアの夢に入り込んでいたらしい。
 猫は水が苦手と相場が決まっている。とはいえ中身は猫じゃないから……といって油断していたら、泳げないじゃないか。まあ、夢の中で溺れるほど間抜けな獏ではないけど、少し驚いた。
 右を向いて少し先にナイトメアがいた。泳いでいる。上を目指してひたすら泳いでいる。都合のいいことに、僕もナイトメアも息は問題なくできるようだ。
「ナイトメア、上に何があるんだい」
 僕が訊く。水の中でしかも少し離れたところにいるというのに、ナイトメアはしっかりと僕の言葉を受け取っていた。
「なにもないよ。でも僕は溺れてしまったから泳いで元いた場所まで戻ろうと思っているんだ」
 話す間も泳ぐことは続けていた。
「なにそれ、意味あるの?」
 僕が再び訊くと、ナイトメアは苦笑する。
「このままでは、たぶん意味はないだろうね。でもさ、助かりたいって思う限りこの体は不思議と動き続けるんだ。だったら少しでもこの行為を意味のあるものにするためにも、僕は泳ぎ続けなきゃいけないと思うんだ」
 それからナイトメアは泳ぎのスピードを少し上げた。
「バクも泳ぐかい?」
「遠慮しておくよ」
 助かりたいと思うから体が動く、ねえ……。残念ながら、体が動くのはそれが夢だからなんだよ、ナイトメア。それは見る方であり、望む方であり。
 僕が見たところ人ってやつは、夢であることを自覚していている自分を否定するための体力は無限なんだ。なぜなら、人生ってのはもう後戻りできないものだからね。君もわかっているのかもしれないけれど、どんなに希望的観測を並べたところでその遠泳に可能性なんてない。それでも泳ぐ以外に選択肢がないんだね。悪いけどナイトメア、君は夢を見ている以上、絶対に水面を見つけることはできない。
 あーあ、ちょっと拍子抜けしたかな。悪夢を愛食するだなんてどんなやつかと思ってみれば、なんて夢だ。もっとバイオレンスでサディスティックな夢を見るのだとばかり思っていた。それがふたを開けてみればなんて静かで、なんて孤独で、なんて無意味な夢なのだろう。
 どんなにわかりやすい絶望が目の前にあろうとも希望を目指さなければいけない。
 これこそ、正真正銘の悪夢だ。

 まだ若い僕はこの手の悪夢を食べるのは初めてで、少し臆するものがあった。でも食わず嫌いはしない主義だ。せっかく下界まで赴いてありつけた悪夢、全部残さず食べてやる。
 僕は口を大きく開けた。すると、周りの景色が僕の眼前に収束していくのがわかる。獏がみんなそうなのか、それとも地域差があるものなのかは知らないけれど、少なくとも僕は夢を食べるとき、その世界全てをあめ玉サイズに凝縮して一気に食べる。今はそのための凝縮作業をしている。辺り一面に広がるのはほぼほぼ海水だ。もし現実でこんなものを凝縮して食べたら塩分過多で確実に死ぬだろうな。でも今僕が集めているのは海水ではなく、夢だ。都合のいい世界だ。
 味は未知数。スパイスはナイトメアにで会うまでに重ねた苦労。目の前にある飴玉ほどの球体に敬意をこめて、
「いただきます」
 ……。
 甘い。甘くて舌にくどいほど残るざらついた食感。なかなかのど元を通らないけれど、通ってしまえばそれを名残惜しく思ってしまいそうな妙なくどさがある。
 新感覚なようで、どこか悪夢らしさを覚える味でもある。少なくとも、当分飽きることはなさそうだ。ナイトメア、やっぱり君に出会えてよかったと思うよ!
 食べられてしまえば夢は終わる。そこにあるのは朝日と顔を赤くして横になっているナイトメア、その上で丸くなる僕だけだった。
「おはようナイトメア。いい夢見られたかい?」
 僕が訊くと、ナイトメアは目をこすりながら僕を見て大きくため息をついた。
「ああ……夢でよかった!」

 

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