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郊外系デイタイム

第一幕 邂逅

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第一幕 邂逅

僕の名前はバク。さえない男に飼われているしがない雑種の猫さ。
 猫といっても普通の猫ではない。正確に言うと難しいんだけど、猫はふつうで、僕はふつうじゃない、とでも言おうか。しがない独身男に飼われていたリリーという名の猫がいた。それを見たバクという名の悪魔――つまり僕――がいい依り代を見つけたぜと唸って、意気揚々とそいつに憑依した。簡単に言えば、僕はリリーに乗り移った悪魔だ、といったところだ。
 実際、リリーはそこいらの猫とは比べ物にならないくらいの優良物件だと思う。いっそこのまま猫として余生を過ごしたくなる程にね。リリーというだけあって僕が乗り移った猫はメスだった。真っ黒な猫だった。もとよりそれが気に入ったから、この猫を媒介にしようと決めたんだけれど。
 初めてバクが乗り移ったリリーを見たときの飼い主――僕はナイトメアと呼んでいる――の表情は今でも忘れられない。思い返してみれば面白かったなあ。

 三日月の夜が好きな僕は、その日もしっかりと日を選んで下界入りした。夜が明ける前にはリリーを見つけておきたくて、僕は寄り道もせずに『ヤサト』という土地を目指した。
リリーという依り代は、下界への入界審査の結果も出てないうちから予約していた。リリーが気になるからではなく、リリーの飼い主が気になるからだった。
 魔界にも滅多にいないほど『異常』なやつが人間の男でいるらしいとのうわさを聞いたのが下界日付でいう三か月前。下等悪魔の僕は僕よりもっと下等な悪魔からその裏情報を手に入れた。
悪夢を好んで見る男がいる。それも毎晩欠かさずにだ。
 その話を聞いた時、最初はサキュバスにでもたぶらかされてるんじゃないかと思った。でもどうやらそうではないようで、理屈はわからないけどどこからともなく悪夢を生成して自分で喰らっているらしい。話を持ちかけてきたやつらからはナイトメアという通称で呼ばれている。安直なネーミングだけど、それだけ純度の高い悪夢そのもののような人間なのかもしれない。
 僕はバクという名前だけど、種族名も獏(ばく)だから、この話には当然興味が出た。なんせ悪夢は僕たち獏の主食なんだから。僕みたいな名前ももらえないような下等な獏だからこそ知り得た裏情報。きっと同族はまだこのことを知らない。それなら誰よりも早く下界に繰り出して、その男を僕のものにしてやる。
 さて、その男の見る夢はおいしいだろうか。どうにもサキュバスが見せる悪夢は僕の口には合わないんだ。天然物の「人が見る悪夢」を求めて僕は下界に降りた。

 ヤサトにつくと、ラッキーなことに男の家はすぐに見つかった。
 さて、どんな出会いを演出してやろうか。
 ファーストインパクトをしくじればいくらこちらが悪魔と言えど、なめられるかもしれない。僕は少し落ち着いて家の中のようすをうかがった。
 ナイスタイミング。男はちょうどリリーと猫じゃらしで遊んでいるところだった。
 これはもう行くしかないな!
 下界の生物に憑依するのは久しぶりだった。自分が溶けていくような、吸い込まれていくような感覚を思い出しながら、僕はリリーの中に入っていった。
「僕の名前はバク。よろしくね、ナイトメア」
 乗り移ってすぐの第一声。どうだ驚け。
 ねっねねねねこがしゃべったああああ!
 くらいお決まりな台詞を叫んでくれてもいいものだけど、あいにく彼の第一声はそうではなかった。
「へえ、近頃の猫は進んでるなあ。喋れるようになるのか」
 そう言われ、おまけに僕の両脇に手を入れて抱えられた。……思っていたのと違う。
「しかし驚いた。体はメスなのに心はオスなんだね」
 そうだよ。そこで違和感に気付けよ。
「人間にもいるからねえ、心と体で性別が違う人。猫も同じなんだねえ」
 ついでにナイトメアはリリーという名前で呼んでいたことを謝罪し、これからはバクと呼ぶと約束した。
 予定では早々に僕が悪魔であることを明かすつもりだったけど、なんだかバカらしくなってきた。明かしたところで何も変わらない気がしたから、僕は呆れながらそのままナイトメアの話を聞いていた。
「それにしてもバクってちょっと変わった名前だね。夢でも食べるのかな」
 やっとか! その言葉を待ってたんだよ! 
「そうだ、そうなんだよ。僕は君が毎晩見る美味しそうな悪夢を食べるためにやってきたんだよ」
 やっと言えたよ、僕の目的。ようやく取り付く島が見えたと思って意気揚々と紹介してしまった。もっとおどろおどろしく言う予定だったのに……。ファーストインパクトをしくじってなんだかもうヤケ気味になっていた。
「夢を食べる……本当に食べるの?」
「妙な質問だね。食べるよ。君たちが米やパンを食べるのと同じようにね」
 僕が言うとナイトメアは手を顎に添えて考える振りをする。
「困るなあ。悪魔に干渉されるなんておっかないよ」
 ナイトメアはそう言って猫じゃらしで僕の顔面を撫でる。
「ぶぉっ! やめろ!」
 微塵も怖れているようには見えないぞ!
 ねこじゃらしの襲撃をなんとか回避して、なんとかこれだけは言ってやろう。もしかしたら長い付き合いになるかもしれない。ここでどちらが上なのかをはっきりさせてやらないとな。
「君が困ろうが関係ないよ。僕は悪魔だからね」
 言ってすぐ、またねこじゃらしに襲撃された。

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