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郊外系デイタイム

Pert6

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Pert6

「胡桃ごめんね、結果的に騙すような形になっちゃった」
「気にしないで。それよりあなたこそ大丈夫なの?」
「うん。もう落ち着いた。ありがとね」
 昇降口を出たところで胡桃に追いつかれた。夏見高校の昇降口はI字型の教室棟の端にあり、一年生は三階、階段を経て踊り場に出ると二年生が割り当てられた二階、最後まで下って階段の下をくぐれば三年生の一階、というふうになっている。私たち二年生の昇降口は二階だから少し高いところにある。ちょうど、正門前ロータリーにある背の高い時計がよく見える。六時十分。私が北条くんを呼び出したのは六時ちょうどだから、たったこれだけしかたってなかったんだと少し苦笑した。
「胡桃にもいろいろ説明しなきゃね」
 私はそう言って階段を下りた。
「そう言うんなら聞くけどね、まずなんでチョコを取られたのは昼休みだって思ったの?」
 胡桃は待ってましたとばかりに訊いてきた。
「ああ、きっかけはこれまた犯行声明文だよ」
 私は数時間前、犯行声明文を見て犯行時刻を五時間目終了後だと言った。でもそれは違っていたらしい。
「最初から不思議だったんだ。なんでわざわざ犯行声明なんて書いたんだろうって。これさえなければ私たちはチョコが盗まれただなんて思わなかった。なにかの拍子に失くしてしまったんだろうって思って終わっていたかもしれないよね」
 胡桃は少し考えてから返答する。
「たしかに、不自然ね。あの犯行声明文が五時間目の授業プリントの裏を使っていたから、私たちも犯行時間を特定できたわけだしね。結果的には間違っていたけど……ってあれっもしかして」
 彼女はすぐに自分でも察してくれるから、いつも話しやすい。
「うん、これは私たちに犯行時間を誤認させるためのものだったんだね。北条くんはきっと昼休みに私の鞄を漁った痕跡を残してしまったから、いっそのことこの件が盗みであることを明確にさせて、そのうえで自分を容疑者から外そうとしたんだろうね」
 ましてや一番隅っこの席だから、チョコ盗みと違って犯行声明文みたいな紙切れを鞄の隙間にねじ込むのはそんなに目立つことでもない。二秒もあれば十分だろう。昼休みにチョコを盗んだ後、五時間目の終わりにもう一度私の鞄を襲撃することに関してはそこまでリスキーなことでもなかったんだろうな。
「痕跡残ってたの?」
 胡桃が聞きかえす。そういえばこれも話してなかったか。
「うん。チョコを入れたのと同じポケットにストロー挿しっぱなしの紙パック野菜ジュースが入ってたんだけどさ」
「ひどいトラップね。こぼすからやめなさい」
 話を遮られた挙句、静かに注意されてしまった。
「うん、案の定こぼれてたんだよね。心の準備なくそのポケットを探ろうものなら服にジュースが飛びそうな程度にね」
 私が少し回りくどい言い方をすると、胡桃がまとめる。
「で、そのジュースを浴びたのが北条なのね」
「うん。お昼ごはんの時、シャツのお腹に赤い染みがついてるのが見えたんだ。ケチャップだと思ってたんだけど違ったみたい」
 よく思い返せば北条くんのお弁当はコンビニの和食系の弁当だった。
「なるほどね、昼休みに席を立てなかったのはそのジュースの染みを机で隠していたからだったのね」
 まあ、結局見つけちゃったんだけどね。
 この話はここでおしまい。胡桃は金輪際この話をしてくることはなかったし、私も話すつもりはない。その後は何事もなかったかのように、昨日までと同じようなくだらない話をしながら帰路についた。
「あっ薫子ちゃん。いま帰り?」
 学校を出て最初の曲がり角で声をかけられた。若い男の人の声。
「あっ店長こんばんは。そっか、もうお店おしまいの時間なんですね」
 こんなところでいつもより帰りが遅いことを自覚する。私に声をかけたのは高校近くにある洋菓子店『ペリドット』の店長だった。ペリドットは朝早くから空いている代わりに夜が少し早い。従業員が少なくほとんど一人で店を切り盛りしているのだから仕方ない。
「いつもお疲れ様です」
 私が笑顔であいさつすると、店長は手を振ってこたえてくれた。
「ありがとう、これからもがんばるよ。君が僕に弟子入りしてくれるまで、店を潰すわけにはいかないからね」
 店長のこの言葉はいつも私のモチベーションを高めてくれる。
「薫子、そんな約束してたの」
「うん、本当は今すぐにでもペリドットで働きたいんだけど、夏見ってバイト禁止だからね」
 「ねー」って、私は店長と顔を見合わせて同意を求める。
 この町に生まれて今までずっとお世話になってきた洋菓子店。高校生になった私の目標は、私の人生の多くを占めるこの洋菓子店にたくさん恩返しをすること。ペリドットで私もおいしい洋菓子を作って、多くの人に食べてもらいたい。そのためにも日々、地道に研鑽をつまなければならない。そんな中での今日の事件は、色恋にかまけている場合ではないぞという洋菓子の神からの警告だったのではないかと思った。
 結局今の私は、恋よりも甘いチョコレートが大事らしい。



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