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郊外系デイタイム

Pert5

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Pert5

あまり親友、篠宮胡桃様を見くびらないでもらいたいものね。薫子の様子が変わったことくらいさすがにわかる。私を先に帰そうとして、あいつはいったい何をしようとしているの。
 昇降口まで来て、靴を履きかえる直前で長いこと葛藤していたけど、やっぱり私はローファーを下駄箱にしまい、来た道を引き返した。

「なんの話?」
 最初に聞こえたのは北条の声だった。時計の針は縦に真っ直ぐ整列している。時間通りに現れたのね。悪いとは思いながらも、私は廊下から教室の黒板側ドアについてる小窓越しに二人の様子を窺った。
「私のチョコをとったのは北条くんなんでしょ?」
 うん? あれっ何の話してんの?
 薫子は自分の席、窓際最後列で窓に背を向けて立っていた。
「なんでそんなこと言うのかな」
 わざとらしい間とショックを受けていそうな口調でそう答える北条は同じく教室後方、薫子とは机一つ分離れた場所にいた。夕日が北条の学ランの黒に反射して少し眩しい。
「昼休みの前半くらいかな、何してたの?」
 薫子は穏やかに言った。
「えっ、昼休みかい?」
 質問の意味が汲めずに戸惑う北条。
「うん、私のチョコが誰かにとられたの、多分昼休みだから」
 今度は私が訊き返したかった。さっきまで五時間目と六時間目の間の休み時間だっていう話をしていたじゃない。
「お昼の前半……教室でご飯を食べていたよ」
 北条は思いの外冷静に答えていた。
「何もおかしなことはない。ねえ、君は僕を疑っているようだが僕は君のものを盗んだりなんてしていないよ」
「本当かなあ」
 さも想定通りの回答でした、と言わんばかりの即答。
 私はその時、自分の席――廊下側の最前列――にいたから正確には北条のしていたことは知らない。でも、薫子が帰ってきた後、薫子が北条のことを見ていた時があった。その時はたしかに自席でお昼ご飯を食べていた。
「私がご飯を買って教室に戻ったのは、昼休みが始まってから三十分後。あと十五分で昼休みが終わる時間だった」
 薫子は一息入れて先を続ける。私もなんとなく薫子の言いたいことに察しがついた。
「ちょっと不思議だったんだよね。北条くん、ひとりだからおしゃべりしてるわけでもないのに、コンビニ弁当だから食堂に買いに行ってるわけでもないのに、随分時間をかけてごはん食べるんだなあって。あの時教室でお昼食べてたの、私と君だけだったね」
それはつまり、北条が昼食を取り始めた時間が遅く、それ以前に何かをしていたことを意味する。あの子、昼休み中そんなこと考えてたのか。
「そんなこと言われても、僕だってゆっくりご飯を食べたいこともあるさ」
「委員会の仕事を差し置いてまで?」
 この切り返しも早かった。
「綾瀬が探してたよ、北条くんのこと」
 だんだん薫子の口調が容赦のないものになってきている。好きな男に向けた言葉とは思えない。
「昼休みが始まってすぐに忠告されてたのに行かなかったなんて、北条くんはそんな人だったの?」
 純粋そうな表情でえぐいことを言う。
「それともいけない理由があったの? 席を離れたら自分が盗んだってばれちゃうような理由が」
 なんだろう、いけない理由って。薫子、なにか心当たりでもあるのかな。
「ねえ、奄美。いい加減言いがかりばかり押し付けるのはやめてくれないか?」
 ついに聞きかねて反撃に出たか。
「それにさ、もし君の言うことが本当なら、僕はどうやって荷物検査を通ったのかな」
 北条もやはりそこを訊いてきた。
「チョコレートが盗まれたんだっけ。きっと何か特殊な包装でもされていたんだろう。だとすると没収とまではいかずとも、『なんだこれは』って訊かれるくらいのことはあると思うんだ」
 さっき私たちがしていた議論を聞いていたんじゃないかってくらい同じ着眼点で少し不快だった。でも、私もこれに対する薫子の答えに興味があった。それと同時に嫌な予感もあった。いやな心当たりが頭に浮かんできたのだった。薫子は話し始める。
「そうだね。いきなり荷物検査だなんて、きっと君も焦ったよね。盗んだチョコをみすみす見つかるわけにはいかない。だから君は自分の荷物が絶対に入らない場所にチョコを隠したんでしょ?」
 そう言って北条に近付く。かと思えば横切り、北条の席まで歩いていた。不審そうにしている北条を横目に、薫子は歩きながらも説明を続ける。
「今日は荷物検査があったから掃除は免除だったね。ゴミ袋も交換されてないはずだよね」
 私の嫌な心当たりが的中したらしい。北条の席の真後ろには、ゴミ箱がある。昼に北条がコンビニ弁当のごみを捨てた時からそこにあった。いや、もうずっと前からあそこが定位置だ。
 さっき私は教室に隠せる場所はないと言った。ただ、そこは調べてない。私が調べたのは『隠し場所』であって、あくまでも後で隠したものを回収することを前提にした場所を想定していたのだった。
 薫子はためらいもなくゴミ箱に顔を寄せた。前かがみになる勢いで、髪が先んじてゴミ箱に入りそうになる。北条はただ見ているだけだった。
「薫子やめなさい!」
 私は教室のドアを開いて叫んだ。いくら人が少ないからって、ゴミ箱を漁るなんてことはさせたくなかった。しかし、北条が驚いたようにこっちを見ただけで、薫子はやめなかった。顔色一つ変えずに、ゴミ箱を漁りはじめた。
「ほらあった」
 しばらくして薫子の顔がゴミ箱から出てくる。続いて出てきた右手には、薄いピンクの包装紙に包まれた立方体の箱があった。
「席を立たずにゴミ箱にモノを入れられるのは君だけだよね、北条くん」
 ゴミ箱から出てきたチョコレート女の表情は、かつて見たことがないほどに優しげで、辛そうだった。
 北条はしばらく口をもごもごさせていた。他の言い逃れを考えているのか、はたまた自分の詰めの甘さを悔いているのか。なんにせよ長続きせずに大人しくなった。
 うつむき気味に北条はひとこと。
「僕は……奄美のことが、好きなんだ」
「えっ?」「はっ?」
 薫子と私が同時に声を上げた。ちょっと待って話についていけない。
 私たちの反応を見て追加の説明が必要だと感じたのか、北条はバツの悪そうな顔でもじもじと話し始めた。
「先週だったかな、篠宮が大きな声で言ってたろ、告白の準備をしろって」
 あ……あったね。
「それだけ聞いた僕はどうしたものか悩んだんだ。奄美がほかの男に告白しようとしているのかと思って、それを阻止できないかと考えたんだ」
「そんな……」
 ええと、今のは犯行動機ってことでいいのかな。薫子も動機までは想像していなかったのか、驚いていた。
「こんなことしないで、ちゃんと言葉で伝えてほしかったよ……」
 少し沈黙する。言ってみれば、お互いを好き合うが故の擦れ違いということなのか。だいぶ美化した言い方ではあるけど。ついでに、だからと言って北条に同情することはないけど。
 私はひとまず静かにしていた。私が口を出すような話ではない。果たして、この沈黙を破ったのは北条だった。
「でもさ奄美、これは元々僕に宛てたものだったんだろ?」 
「えっ?」「はっ?」
 また同時に反応してしまった。
「だったらいいんじゃないか? それってつまり僕たちって両思いってことなんだろ?」
なっなにいってんのこいつ。
「えっいやっその……」
 薫子もあまりに唐突な北条の豹変ぶりに目を回している。
私は今すぐ北条に飛びついて一発ひっぱたいてやろうかと思った……でもそれも途中で思いとどまった。きっと、私がこう考えるだろうと思ったから、薫子は私を先に帰らせたんだ……。
 やっぱり静かにしていようと気持ちを落ち着ける。同時に薫子の様子を窺う。少し冷静になったらしい。薫子は一回深呼吸して話す。
「でも誰だかわからない女の子からの呼び出しには応じるんだね」
 あ……たしかに。今日の十八時、この呼び出しは匿名で行っている。こいつ、奄美の妨害をするだけして、他の女の誘いには易々と乗ったっていうの?
 薫子の言葉を聞いた北条はひとこと。
「僕を呼んだのは奄美だと思ってたさ」
「私が誰か違う人に告白しようとしていると思ったんじゃなかったっけ」
ああ、北条の言っていることは支離滅裂だった。
「でなきゃ私の大切な人へのプレゼントはこんな埃まみれにはなってないの」
 薫子は両手でチョコレートの箱をすくうように持っていた。しばらく箱を物憂げに見つめた後、そのまま手を前に伸ばす。その先には北条がいる。
「食べて」
 さっきまでのかすれ声とは違って、はっきりとした声だった。
「君のために作ったんだよ。食べてくれる?」
 耳にタコができるほど聞いてきた二人の出会いの話を思い出した。北条はあの時も自分で汚したチョコを食べることを強要されていた。目の前の北条は少し言葉を詰まらせている。もともと北条に興味はないけど、ここでどんな判断をするのかについては興味があった。かつて自分が踏んだチョコを食べた北条。程なくして、彼は口を開いた。
「でもゴミ箱に入ったんだよ? いくらなんでも」
「ゴミじゃない!」
 北条の言葉はすぐに薫子にかき消されていた。数秒経っても薫子の叫びは反響し続けている。
「ゴミじゃ……ないのに……」
 そんな中、その囁きだけは確かに聞こえてきた。
 薫子は叫んだままの勢いで鞄をつかみ教室を飛び出した。置き去りにされる北条のことなどお構いなしに、私もその後を追った。

 

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