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郊外系デイタイム

Pert2

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Pert2

「あんたも物好きよね」
 その日も、いつものお昼休みを親友の篠宮胡桃と過ごしていた。少し色の明るいボブカットと黒縁の眼鏡の両者に覆われた小顔から、気の強さを強調するような釣り目がのぞく。今は、少し呆れ気味に垂れ下がっているけれど。胡桃は学食の購買で買ってきたクリームパンをご丁寧に一口サイズにちぎって食べていた。
「物好きとは失礼な」
 私の抗議を胡桃は鼻で笑い一蹴した。
「北条なんかのどこがいいんだか。特段顔がいいわけでも成績がいいわけでもなし。あんまりにクラスの中で目立たないもんだから、中身に至ってはわからないじゃない」
 胡桃の言い分に私は腹を立てた。
「知らないのに北条ごときとか北条の分際なんて言い方ひどいよ!」
「そこまでは言ってな……」
「私は彼にとっても優しくしてもらったんだから」
 そう。きっかけはえらく些細なものだった。



 それは放課後の寄り道後の出来事だった。私は珍しく月末まで小遣いを余らせたその褒美として、自分に一口チョコの袋詰めを買い与え、自分でもわかる満悦の表情でそれを抱きかかえて帰路についていた。
 一口チョコと言ってもコンビニで買えるお徳用などではない。夏見高校の近くには、私の毎月の小遣いの多くをかれこれ二年近く吸い続けている洋菓子店『ペリドット』がある。その店の店長がたまに気まぐれで作りたての一口チョコを販売しているのだ。私が買ったのはそのペリドットの言うなれば『太陽のチョコ』であり、見事いつも通り小遣いを全て消し飛ばした。我ながら、まったくもっていいお客様である。
 帰り道。自宅よりも高校に近いペリドットからの道のりは決して楽なものではなかった。別に極端な悪天候に見舞われたわけでも、体調不良になったわけでもない。
「一個だけ……食べちゃおうかな」
 食べ物は大切に、を信条とする私からすれば大事なチョコレートの食べ歩きなど甚だ冒涜的な行為であるということは分かっていた。しかし、それでも欲望に耐えられない私のばかばかばか。どこでも気軽に食べられるのが一口チョコの魅力じゃないか、と悪魔がささやく。
 そこにもはや天使など存在せず。気が付けばもう私はチョコレートの入った袋に手を突っ込んでいた。ああ、だめだー。記念すべき一個目。上品な金色の包み紙をほどき、いざ、いただきま
「ぐふぉっ」
 今の声は……私のか!
 あたらしい挨拶を編み出しそうになりながら私は状況の整理に努める。私は今しりもちをついて倒れているらしい。そして目の前には男子高校生が一人。おそらく、曲がり角で出会いがしらに衝突したのだろう。残念ながら私が食べているのはトーストではなくチョコレートだけれど。
「奄美(あまみ)さん、大丈夫?」
 目の前の男子高校生が私を気にして手を差し伸べてくれた。ややぼさついた髪、あちこちせわしなく泳ぐ視線、不自然に着崩された学ラン。ちょっと変だけど怖い人じゃなくて良かった。私はきっと食べ歩きなんかしようとした罰が下ったのだろうと反省していた。
「はい、ごめんなさい不注意で」
 そう言いながら私はようやく立ち上がる。
あれっなんでこの人、私の名前を知ってるの? 知ってなきゃいけない人だったら失礼だから私は追及を控えた。
 そうだ、チョコレート。ぶつかった表紙にさっき食べようとした一口チョコを落としてしまった。大事な大事なペリドットのチョコレート。ひとつだって無駄にするわけにはいかない。私は周囲を見渡してチョコレートの捜索をする。結論から言えばチョコレートはすぐに見つかった。しかし場所が良くない。私が落としたチョコレートは、目の前の男子高校生の足の下にあった。要するに、踏まれていた……。
 愕然、茫然、そして必然的に私は叫ぶ。自らが花の女子高生であることなど忘れて「うおおおお」とうなってしまった。
 私の雄叫びを受けてさすがに事情を把握したらしい男子高校生。すぐに足をどけて無残な姿となったチョコレートを拾い上げた。
「ああ、大事なチョコレートを……ごめんね」
 そう言いながら彼はチョコレートの処理の仕方に迷っていた。
「……食べてください」
「えっ?」
 無意識のうちに出ていた言葉に私自身も驚いた。でも本心との相違はなかったので私はその無意識に任せることにした。
「食べ物を粗末にするなんて、最低です」
 ちなみに自分のことは棚に上げている。
 ペリドット店長の気まぐれ一口チョコレートは、その柔らかな食感に特徴がある。故に、踏めば大惨事は免れない。そんなものを食べろだなんて私は思ってない。あくまで私の怒りを表現するための口上であって、謝罪の一つでもあればそれで終わりにするつもりだった。もとはと言えば私だって不注意だったんだし。それなのにこの人ときたら……。
「わかったよ」
「はえ?」
 思わず気の抜けたリアクションをしてしまった。
その男子はチョコレートがはみ出た金の包み紙を丁寧にはがし始めた。えっ、食べるの? 食べてとは言ったけどさ。
 金紙を全て剥き終えた彼はそれを一気に口の中に投入。過去に何を踏んできたかわかったものではないその靴で踏んだチョコレートをだ。なんということか。落ちているものを食べちゃいけませんって、小さい時にお母さんに教わらなかったのかしら。
 数回咀嚼してそれを飲み込んで彼からひとこと。
「さすがはペリドットのチョコレートだね。とても美味しいよ」
「あ……うん、よかった」
 その時の私はそう言うことしかできなかった。
 後日教室で件の彼が同じクラスの北条くんであるということを知ったのだった。
 それからというものの私は無意識のうちに彼を目で追うようになった。あの時の姿が頭から離れなくなってしまい、北条くんはどういう人なのだろうと日夜気になって仕方なくなってしまった。
 そう、男の気配無いまま苦節十七年、これを機に私はついに恋する乙女としての覚醒を遂げたのだった。



「はいはい、そのありえない話はもう何度も聞いたから」
 ここまで語らせておいてそれを一蹴する胡桃。いや、勝手に語っただけだけど。
「つれないわねえ。あんたが南原くんの話しかしなかったときに比べればよっぽどましじゃない」
 私がそう言うと、胡桃は少しばつの悪そうな表情になる。
「あっあの時は、悪かったと思ってるさ……」
 そう。男の気配無く、このまま永遠の処女を約束されるのかと思われた数ヶ月前、私の目の前にいるこの女は一足先に覚醒していた。
 意中の殿方は陸上部の一年生ルーキー、南原くん。私も胡桃に引きずられて一度見たことがあるけど、いかにもスポーツ命ですって感じのマッスルボディが印象的で顔はあまり記憶に残っていない。それよりも毎日のように語られる胡桃からの南原トークによって、私は彼の印象を形作っていた。それほどに当時のこいつは鬱陶しかった。
 しばらくして胡桃は意を決して南原くんに思いを告げるも華麗に爆散。同学年に好きな子がいるらしい。可哀想な我が親友よ。思い出すだけでも飯が旨い。
「で、いったいいつになったら告白するわけ?」
 私があの日のことを回想して腹を満たしている隙に胡桃が妙に大きい声で問いかけてきた。
「うわっ胡桃、声大きいから」
 この女、絶対わざとだ。
 私が慌てて胡桃を止めにかかったところ、その拍子に机の上からペンケースが落下。不覚にも開きっぱなしにしていたペンケースは宙を舞い、着陸と同時に内容物が四散。胡桃覚えてろよ。
 慌てて散らばったペンを拾っていると、近くから声がかかった。
「消しゴム、こっちまで飛んできたよ」
 そう言って私の消しゴムを届けてくれたのは、まさしく話題の北条くんではありませんか。胡桃ありがとう。
「あっありがとう、北条くん」
 あーどさくさに紛れて名前呼んじゃった。あわよくば拾ってくれる時に私の名前を呼んでほしかったけど贅沢は言わない。胡桃、よくやった。北条くんが自分の席に戻るまで、ずっと笑顔で見続けてしまった。
 つかの間の幸福を経て話が戻る。
「えっと、なんの話してたんだっけ」
「奄美、告白せよ」
 うわっすごい不機嫌そうな顔。
「そうだそういう話だった。えと、告白は……まだちょっと心の準備が、ね」
 あっ嫌な顔された。柄にもないこと言ってんなよって顔だ。
「女子みたいなこと言ってんなよ」
 おおう、そこまで言うか。
「あっあの、私こう見えても一応女子なのですが……」
「知ってる」
 こいつ一発殴っていいかな。
「心の準備ができてないのは本当なんだよー」
 第一そんなに仲がいいってわけでもないし、まだろくに声を交わしたこともない。告白するとはいっても、その前の段取りはある程度必要だと思うんだ。
 という意味を含む私の抗議は胡桃からの次の一言で一蹴された。
「じゃあ準備しなきゃね」
 じゃあ準備? 人差し指を立ててかっこよく言ってくれたところ申し訳ないんだけど、
「胡桃せんせー。すみません、言ってる意味が分かりません」
 私は手を挙げて質問した。
「薫子が準備したいって言ったんでしょう。告白の成功率を上げるための準備をさ」
 最初からそうやって具体的に話してほしかった。
「たとえばどんなことしたらいいかな」
 そんなことを同類に訊いても仕方ないとは思いつつ。
「そうねえ、印象に残すためにはやっぱりプレゼントでしょう」
 案の定、安直だった。
「でも、物で釣るみたいじゃない?」
 この作戦の場合、懸念といえばやはりそこになる。
「そんなの、釣られる方が悪い」
 うわあ言っちゃった。
「心配せずとも、きっと向こうは釣られただなんて思わないよ。むしろ逆じゃないかな」
「逆? 喜ぶってこと?」
「男ってね、『自分のために用意してくれたもの』に弱いのよ」
 私と同じ経験値の分際でなんでそんなこと知ってるんだ。いや、そもそも本当にそれは正しいのか?

 

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