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郊外系デイタイム

ホワイトデーは三倍返し

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ホワイトデーは三倍返し

彼に告白をしたのは高校二年生のバレンタインデーだったと思うから、もう付き合って八年になる。改めてそう言うと、過ぎた歳月の長さに少し呆然としてしまったりもする。
 私にとって初めての恋人であった義人にとっても、私が初めての恋人だったらしい。だから普段は大人しい義人も、付き合い始めたばかりの頃は少し浮かれていた。その事が私は嬉しかったんだけれど同時に気恥ずかしさもあって……だからだと思う。自分のことを棚にあげてでも、初めての彼女に浮かれている義人のことを少しおちょくってみようと思った。
「ホワイトデーは三倍返しね」
 交際を始めて半月くらいたった三月の初旬に、私は冗談半分でそう言った。今になって思い出すと、若気の至りだなあと誰になにされたわけでもなく赤面してしまう。義人は私のその冗談を笑い飛ばしていたと記憶している。だからこそ、今私の身に起きている出来事の正体を、私はつかみかねている。

 事態が発覚したのは去年、私たちにとって七回目のホワイトデーだった。
「真希、ハッピーホワイトデー」
 ハッピーって……。無垢な笑顔でハッピーとまで言いながらお返しをくれる男を私は義人しか知らない。恥ずかしながらかわいい。
「ありがとう。中はなにかなあ」
 私は笑顔でそれを受けとる。笑顔には笑顔で返さないと失礼だから。私はニヤニヤしながら丁寧に包装を剥がしていく。
「わあ、こんないいもの、高かったでしょう」
 十センチ程度の立方体の箱を開けると、中からは女ものの腕時計が出てきた。それもなかなかいいブランドの時計だ。
「気にしないでいいよ。真希にだっていいものもらったんだから」
 義人はへらへらしながらそう答えた。突っ返すわけにもいかず、恐縮しながらも私はそれを笑顔で受け取った。
 後日、さすがに申し訳なくて、埋め合わせをしようと思った私はプレゼントされたの値段をインターネットで調べた。少しの苦労もなくそれは出てきた。やっぱり有名でいいものだったんだなと思って、私はそれの値段を控える。やっぱり高い。私があげたものとはケタが違う。だいたい、私があげたものの三倍くらいかな……だいたい……ん、あれ?
 そこそこ切りのいい数字だったから気付けたのかもしれない。その値段に妙な違和感があった。私は急いでスマホで電卓を起動した。
「やっぱり……そういうことだったんだ」
 義人がくれた腕時計の定価は、私があげたプレゼントの定価のちょうど三倍だった。完全に、一円単位で一致していた。私は怖くなって過去六年間やり取りしたプレゼントについてもわかる範囲で値段を調べた。経済状況の変化などで今とは値打ちが変わっているものもあるから正確な計算はできなかったけど、おおよそのところは一致した。間違いない。義人は初めてのホワイトデーの時からずっと私があげたもののちょうど三倍の値段がするものを私にくれていた。学生時代のプレゼントなんて大した金額にならなかったから気付かなかったけど、社会人になってお金に余裕ができるようになった今年だからこそ気付くことができた。
 気づいた瞬間、正直少し引いた。でもすぐに笑ってしまった。付き合いはじめの冗談を今でも律儀に守っているなんて、義人らしい。引いたけど嫌いになるのかと言われれば全然そんなことはなかった。
 しかし困ったことに変わりはない。ことが発覚してしまった以上、私は義人にもう立派なバレンタインを演出することができなくなってしまった。いいものをあげたら三倍で返ってくる。それを踏まえて私も選ばなければならない。義人の負担になるのはもちろん嫌だし、少し下衆なことを言えば、近い将来財布を統合するかもしれない人の財布を自らの手で軽くするのはいかがなものか……とも思ってしまうんだ。かといって、去年よりあからさまにグレードダウンしたものをあげたらどうだろう。そんなことを気にする男だとは思ってないけど、うっかり私の気持ちが自分から離れ始めているんじゃないかとか錯覚されてもいけない。ああ、八方塞がり。
 八回目のバレンタインデーが来週に迫っている。この時期まであげるものを決められていないのは初めてだ。どうする私。高くいくか、安くいくか。いや待って、他に手段はないのかな。『プレゼントは私』みたいなバカなもの以外で、もうちょっと情緒ある選択肢があるんじゃない?
 考えて、考えて、考えて、考え抜く。それでも納得できる方法は浮かばなかった。
「ちょっといまいちだけど仕方ない、この作戦でいこう」
 でも一応の抜け道は用意できたので、私はさっそく行動を起こした。

 八回目の二月十四日。義人も私も仕事が早く終わったので、私は会社から直接義人の家に行った。
「ただいま、私の家じゃないけど」
 合鍵で鍵を開け、お約束のあいさつで義人の家に入ると、「おかえり、君の家じゃないけど」とお約束のあいさつが返ってきた。義人、先に帰ってたのね。
「はい、さっそくだけどバレンタインだよ」
 私はコートも脱がず、居間に落ち着くこともなく、まず真っ先に左手に下げていた紙袋を義人に渡した。
「ありがとう真希、中身は何かな」
 私がコートを脱いでいる間に義人が中身を確認する。私はコートの陰からじっと義人の表情をうかがっていた。
「真希、これ」
 義人の声が小さく漏れた。これはうまくいったかも。
「覚えてる? 私があなたに初めてあげたバレンタイン」
 そう、私があげたのは八年前義人に告白する時にプレゼントした青いハンカチと手作りのチョコレート。八年前の再現をしてみたのだ。これなら費用は安く抑えられるし、想い出補正があるからその分価値を見出せる。金銭的なグレードは下げたけど愛情は下げてませんよという意思表示をするのなら昔を振り返るのが一番だと思った。名付けて原点回帰作戦。これでどうだ。
「ありがとう、真希。嬉しいよ」
 なんだかいつもより意識的に名前を連呼されている気がする。恥ずかしい。なんにせよ、喜んでくれてよかった。いろんな意味で。
「ちなみにさ、一つ質問があるんだけど」
「うん、なに?」
 義人は笑顔はそのままに、少しかしこまった調子で聞いてきた。なんだろう。
「もしかして、三倍返しがばれたのかな?」
「うっ」
 ちょっと、なんでよ。君いつもそういう妙なところで鋭いよね。
「やっぱりか。いやあ節目の年でもないのに想い出、だなんて何があったのかと思ってさ」
「……」
「あっいや、気を遣わせちゃってごめんよ真希」
「……」
「あの、真希さん?」
「もう……三倍返しは禁止!」


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