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郊外系デイタイム

まやかし 9

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まやかし 9

「待って!どうして!」
 夕焼けが差し込む二年B組の教室の隅で私は叫んだ。
「どうしていっちゃうの……」
 それでも背を向けたままの八尋くん、
「わからないのか? 風花」
 八尋くんは呟くように言った。
「俺だって万能じゃない。ちょっと疲れちゃったのさ」
 今までこんな事いう八尋くんを見たことがなかった。彼は彼で、本当はそんなこと言いたくなかったのかもしれない。
 だから、なおさら、
「ねえ、待って。私、あなたと一緒じゃないと」
「だから言ってるだろ」
 言葉を遮られて私は固まった。
「そんな覚悟ができる程、俺はまだ立派じゃないんだ」
 八尋くんが教室の扉に向かって歩き出す。
 待って、別れたくない。私のことは嫌いになってもいい。でも、このままじゃ八尋くんが死んじゃう。
 涙で視界がぼやけてきた。そのせいで、教室を出ていく八尋くんのことをしっかりと捉えることができなかった。

「終わ……ちゃった……の?」
 あれだけ美しく咲いた花も、散る時はあっという間だった。
「あーあ、もう終わりかい。つまらんのう」
 その後すぐ聞こえてきた声は、私の内にこれ以上ないほどの憎しみを生んだ。
 私の前に姿を現したナミは、今までのような手のひらサイズではなく、私より少し背が高いくらいだった。
「いやしかし楽しませてもらったぞ。これだから人間の男女関係というのは興味深い。
 それにしても、男というのはみんなああ言うんじゃな。覚悟だの器だの、ひと時の恋愛ごときにたいそうなことを……」
 人間と同じ背丈になり、リアリティを増したナミは、神様というだけあってやはり美しかった。そんな女神の胸ぐらを私は思い切り掴んだ。
「八尋くんを殺さないで! 私ならいくらでも殺して構わないから!」
 今まで生きてきて、こんなに声を張り上げたのは初めてだった。その私の絶叫を聞いたナミは、
「断る」
 と一言、無表情で、静かに言った。
 もう、この感情が憎しみなのかどうかすらわからない。あっさり断られて、そのまま声が出なかった。ひとしきり威嚇した後、私は急に萎んだ。
「八尋くん、もう死んじゃったかな」
「知らん」
「私もそこの窓から落ちたらあとを追えるかな」
「二階じゃあ厳しいんじゃないか?」
「じゃあもっと上の階まで行こうかな」
 あれだけ依存したんだから、もう依存せずには生きられない。
「好きにしろ」
 ナミの言葉を聞くよりも先に私は教室を出た。

 

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