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郊外系デイタイム

Pert7

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Pert7

「鈴先輩」
「なによ」
「清さんから聞きました。病気のこと」
「そう。それなら話は早いわ。私の目の前から消えて。早く」
「……なぜですか」
「なによ」
「……なぜ教えてくれなかったんですか」
「……」
「先輩にとっては、言ったところで何かが変わるわけではないかもしれない。でも、俺にとっては変わるんです。先輩に言わなければならないことが、たくさんあったんです」
「……やめてよ、そういうの」
「先輩、俺」
「やめてってば! ……あなたに、言えるわけ……ないじゃない」
「結局、言えなかった。好きだって、ずっと好きだったって、言えなかった」
 ……。
 話がかみ合わなくなったところで、篠宮くんに私の声が届いていないことに気が付いた。よく見ると、篠宮くんは私にではなく、たくさんの花に囲まれた、いつ撮ったものかもわからない私の写真に向かって訴えかけていた。
 そうか、私もう……死んでたのね。



 次の日。篠宮はベッドに腰掛け、静かに窓の外を眺めていた。雪はまだやんでいなかった。
「なにやってるんだろうな」
 そうひとりでつぶやいた。もちろん返事なんて来るわけがなかった。
 一日経って少し冷静になっていた。昨日はたくさん恥ずかしいことをしてしまったと赤面し、直後に感じた頭痛から全て二日酔いするほど飲んだせいだと決めつけた。
 一定の感覚で降り続ける雪が催眠術のように篠宮の思考を奪う。考えることをやめないためにも、窓から目を離し、そのままベッドに倒れた。篠宮はベッドに横向きになり、低い位置から部屋の反対側を見た。
 視線の先にはCDラックがあった。篠宮は普段あまり音楽を聞かないので、その小さなラックに収納されているもののほとんどはメタがライブハウスなどで手売りしてきたCDだった。篠宮は最近、あまり率先してメタを聞いていない。余計な感情が混ざって聴くことができないらしい。聴くのは、今のようになにかで思い悩んだ時や、考えをまとめたい時だと、いつかの飲みの席で清に言っていた。篠宮にとってメタの音楽というのは、音楽と言うよりかは御守りに近いものなのかもしれない。
 篠宮はおもむろに立ち上がりそのCDラックに近寄った。篠宮はそこから一枚のCDを取り出す。
 懐かしい……。『タイムカプセル』だ。
「この曲、メタの最後のライブで演奏した曲だ」
 篠宮はケースからCDを取りだし、CDラックの隣にあるCDプレイヤーに挿入する。再生が始まるまでのわずかな隙間で歌詞カードを広げて、再びベッドに座る。
しばらくして、アコースティックギターの音が流れ始めた。
 


大人になった君に届くかな叫び
素直じゃない子供の私より

聞きたいことはたくさんあるよ
夢は叶いましたか
たくさん笑いましたか
人を好きになりましたか

大人になった君に伝えたいごめんねって
なにも言わず 言えずにいなくなって
どうか笑っていて それが私の願い
安心して 私は忘れないから

君だけが忘れないでくれるから
無駄じゃない 悪くなかったって思う
でも君には前を向いてほしいから
手を離して もう行かなきゃ



「先輩の最後のライブは高校三年生の夏ごろだった。この曲もその時に作られた曲なんだ」
 曲が終わっても、篠宮は歌詞カードから目を離すことができなかった。最後のトラックに収録されていたから、そこからしばらくは無音だった。
「なんだよ……何年も経って初めて気づいたよ。先輩も意地が悪い」
 篠宮にとってこの曲は、当時聞いていた時は他の曲と同じように好きだった。他の曲に比べて随分素直な歌詞だな、くらいの感想はあったかもしれない。
 その曲が今、タイムカプセルのように大人になった篠宮に語りかける。大人になった篠宮くんへ、十八歳の鈴より。
「ごめんなさい先輩。俺、ずっと心配かけてたんですね。ずっと独り善がりで、そんなことにも気付けていなかったんですね」
 篠宮は歌詞カードを閉じてCDケースにしまった。
「篠宮さん!」
 丁度のタイミングで、どこからともなく声が聞こえた。篠宮は後ろを振り返り窓の外を確認する。声の主は篠宮が住んでいるマンションが接している道路から叫んでいた。亜美だ。
 篠宮は急いでに外に出て、雪の中で傘も差さずに立っている亜美のもとまで走った。マンションの前までたどり着くと、亜美は静かに会釈した。
「どうしてここがわかったんですか」
 篠宮が訊くと、亜美は神妙な表情で答えた。
「あの後、篠宮さんのお姉さんなる方がお店にいらして、この場所を教えてくださいました。ひとこと、謝りたくて……」
 清か。
「勝手ながら、その時に篠宮さんが悩んでいることも伺いました。私、何も知らずに篠宮さんをさらに悩ませてしまったんですね」
 亜美はそう言って一歩下がった。篠宮はそれに合わせて一歩前に進んだ。
「好きな人を悩ませてしまうくらいなら、いっそこの気持ちは……」
「好きです」
「えっ」
「俺も水原さんが好きなんです。逃げたりなんかしてごめんなさい。最初からわかっていたことだったのに、ようやく決心できました」
 篠宮は亜美の目を見てそう言った。そしてその後、逃げてごめんなさい、ともう一度言って頭を下げた。
 しばらくしても亜美からの返事はなかった。ただ、頭上から聞こえる亜美の息遣いだけが、少し強調して感じられた。篠宮はおそるおそる顔をあげる。亜美は、泣いていた。それも尋常ではない号泣っぷりだった。
「……え、あれ、水原さんすみません。何か気に障ることでも」
「違うんです」
 亜美は焦る篠宮を制止した。しかしその後も泣きやむことはなく、何がどう違うのかはわからなかった。しばらくして亜美はハンカチを取り出して涙を拭き、なんとか落ち着いたようだった。
「私、そんなに泣いていましたか」
「それはもう、この世の終わりかっていうくらいに」
「そうですか……驚かせてしまってすみません」
 亜美はそう言ってすぐに笑った。出会った時と、まったく同じ会話をしていたからだろうか。
「悲しくて泣いていたのではありません……うれしいんです」
 亜美ははっきりとそう言った。
「水原さん……」
「これからもよろしくお願いしますね」
 亜美の笑顔を見て、篠宮の……篠宮くんの心の雪が溶けていくような気がした。
 緊張が解けたのか篠宮くんも一緒に笑う。笑った時にこぼれる二人の白い息が交わっては宙に消えていく。

 ……ああ、よかった。篠宮くんが笑ってくれて。
 もう、思い残すことはない。

 

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